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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7520号 判決

原告

株式会社松栄

被告

谷口博信

主文

一  被告は、原告に対し、三七万七六三八円及びこれに対する平成五年六月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一二〇万八一一八円及びこれに対する平成五年六月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機による交通整理の行われていない交差点において、普通乗用自動車同士が出会頭に衝突し、車両が破損した事故に関し、右被害車の所有者が加害車の運転者に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  事実(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成五年六月一日午前七時二五分ころ

(二) 場所 大阪府松原市三宅西五丁目七八五番地先交差点(以下「本件事故現場」ないし「本件交差点」という。)

(三) 加害車 被告が運転していた普通乗用自動車(和泉三三と七七七、以下「被告車」という。)

(四) 被害車 原告が所有し(甲三)、松本義之(以下「松本」という。)が運転していた普通乗用自動車(なにわ五六は三三二五、以下「原告車」という。)

(五) 事故態様 本件交差点において、原告車と被告車とが出会頭に衝突し、原告車が破損した。

二  争点

1  責任原因

(原告の主張)

本件事故は、被告が、本件交差点は、見通しが悪かつた上、自車の進路である南北道路路面に「開口部注意」と表示されており、しかも、開口部から進入して来る車両を発見するため大型ミラーが設置されていたのに、先を急ぐあまり、大型ミラーによる安全確認をせず、減速もしないまま本件交差点に進入した過失が原因であるから、被告は、民法七〇九条に基づく責任を負う。

2  過失相殺

(被告の主張)

被告車が走行していた南北道路の車線間の分離線は、本件交差点中央部分を貫通していたこと、同道路の走行車線上には、大型トラツクが停止し、同交差点の三分の一を塞いでいたため、見通しが悪くなつていたこと、原告車が同交差点に先入したとはいえ、先入したのはわずかな距離にすぎないこと、松本は、センターラインの手前で停止後、再度、大型トラツクの運転者が手招きをしたと主張するが、仮にかかる手招きがされたとしても、それを盲信せず、最徐行して分離線を超えて停止後、南北道路の安全を確認すべきであつたのに、これを怠つたことを総合すると、松本には八割を超える過失がある。

3  その他損害額全般

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  事故態様等

前記争いのない事実に証拠(甲四、六、七、乙一、二、五、検乙一ないし九、被告)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

本件事故現場は、別紙図面のとおり、市街地にあり、南北に通じる片側二車線(片側幅員約六・四メートル)の道路(以下「南北道路」という。)と東西に通じる幅員約五・六メートルの道路(以下「東西道路」という。)とが交差する、信号機による交通整理の行われていない交差点上にある。南北道路は、制限速度が時速五〇キロメートルであり、その西側には幅約三メートルの歩道があり、東西道路は、制限速度が時速二〇キロメートルであり、両道路とも、路面は平坦でアスフアルトで舗装されており、交通は頻繁であり、転回・駐車禁止であつて、夜間は暗く、相互の見通しは悪い。

南北道路の車線間の分離線は、本件交差点を貫通しており、東西道路に対して優先道路の関係にあり、東西道路の同交差点西詰には、一時停止線が引かれている。本件交差点の北東角には、大型ミラーが設置され、東西道路から同交差点に進入して来る車両の有無、動静が確認できるようになつており、また、南北道路の路面には、同交差点手前に白文字で「開口部注意」と表記されていた。

松本は、原告車を運転し、東西道路を東進中、本件交差点西詰の一時停止線の手前で一時停止をしたところ、南北道路の走行車線に停止中の大型トラツクの運転者が同車の前を通過するよう手で合図をしたので、松本は原告車を発進させ、南北道路の車線間の分離線の前で再び停止したが、同トラツクの運転者がさらに進行するよう、手で合図をしたので、さらに同交差点北東角にあるミラーで安全確認後、時速数キロメートルの速度で自車を南北道路の追越車線に進入させた際、同車線を進行して来た被告車に原告車を衝突させた。

被告は、被告車を運転し、南北道路の追越車線を時速約五〇キロメートルの速度で北進中、本件交差点に差しかかつたが、同交差点の手前約二〇メートルの地点で同よりさらに約五〇メートル北方にある交差点の信号が赤色を表示していたことなどに気をとられ、自車線上の路面に「開口部注意」と表記され、かつ、本件交差点に大型ミラーが設置されていることに気付かないまま、何ら減速せず同交差点に進入したところ、東西道路から同交差点に進入して来た原告車を約四、五メートルの至近距離で発見し、急制動の措置を講ずるいとまもないまま、自車を原告車に衝突させた。

2  被告らの責任

前記認定事実によれば、被告は、被告車を運転して本件交差点に進入するに当たり、本件交差点はもともと見通しが悪かつた上、走行車線上に渋滞車両のため、一層見通しが悪くなつており、また、南北道路の同交差点手前には路面に「開口部注意」の文字が大書され、同交差点北東角には、ミラーが設置されていたのであるから、同交差点に進入するに当たり、減速の上、東西道路から同交差点に進入して来る車両の有無、動静を確認すべき注意義務があつたのに、これを全く怠り、何ら減速もせず、ミラーによる確認もしないまま、先入していた被告車を至近距離に至るまで気付かず、同交差点に進入した過失がある。

3  過失相殺

松本には、本件交差点は、見通しが悪く、同交差点に西詰には、一時停止線が引かれており、かつ、南北道路の車線間の分離線が同交差点中央部を貫通しており、東西道路に対し南北道路が優先道路であつたのであるから、同交差点に進入するに当たり、南北道路を走行する車両の有無・動静を十分に確認の上、同道路を走行する車両の通行を妨げてはならない義務があるのに、同道路走行車線に停止中の運転者が同交差点を通過するよう手で合図をしたことに気を許し、南北道路の安全を十分確認しないまま同交差点に進入した過失がある。

松本の右過失と前記被告の過失とを対比すると、東西道路に対し南北道路が優先関係にある以上、松本の過失がより大きいというべきであるが、安全確認を全く怠り、減速もせず、本件交差点に先入していた原告車を至近距離に至るまで気付かず、同交差点に進入した被告の過失も著しいものがあり、その過失割合は、松本が七割、被告が三割と認めるのが相当である。

二  損害

1  修理費(主張額八四万〇〇九九円)

証拠(甲一)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、修理費として右額を要したことか認められる。

2  評価損(主張額三五万七〇〇〇円)

証拠(甲一)によれば、原告車は、トヨタクラウンワゴンであり、平成元年七月ころ、登録し、本件事故に至るまで約四年数か月使用した車両であるところ、本件事故により、ステアリングギアボツクスの損傷、ハンドル部の異音、右前ホイール・フエンダー・ピラー・ドア損傷、ロツカーパネルへの押込み、右前サスペンシヨンの損傷等が生じ、修理を要することが認められることを考慮すると、同車には、本件事故により前記修理価額の三割に当たる二五万二〇二九円(八四万〇〇九九円×〇・三)の評価損が生じたものと認めるのが相当である。

なお、原告は、評価損として三五万七〇〇〇円の損害が生じたと主張し、その証拠として、有限会社増田モーターズ作成にかかる書証(甲五)を提出するが、下取価格として記載されている金額がいかなる根拠に基づくものなのかが不明であり、信用できない。

(損害合計一〇九万二一二八円)

三  過失相殺及び弁護士費用

1  過失相殺

前記のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた損害から、七割を引くのが相当であるから、同減額を行うと残額は、三二万七六三八円(一〇九万二一二八円×〇・三)となる。

2  弁護士費用(主張額一〇万円)

本件の事案の内容、本件事故後弁護士を依頼するまでの時間的経過、認容額等一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は五万円と認められる。

四  まとめ

以上の次第で、原告の請求は、三七万七六三八円及びこれに対する本件不法行為の日である平成五年六月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 大沼洋一)

別紙 〈省略〉

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